06 大西崇仁 Takayoshi Oohashi

スクリーンショット(2014-03-27 12.55.25)

出典:松山大学スペシャルサイト「マジダイ」(URL: http://www.matsuyama-u.ac.jp/majidai/about/)

 

 2017年に開催されるえひめ国体で、強化チームとなっている松山大学女子駅伝部。選手たちは大学近くの寮で共同生活を送り、期間が「日本一長 い」といわれる合宿で、体力、そして精神を極限まで鍛えています。愛媛という地方にある大学の、無名だった部が、選手層が厚く、資金面でも優位にある関東圏の大学と互角に戦い、全国クラスの強豪にまで成長できたのはなぜでしょうか? それは、愛媛だからこそできる駅伝をみつけたことにあります。選手たちを支え、指導してきた大西崇仁監督に、部の創設の経緯やこれからの女子駅伝部について、お話を伺いました。

 

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profile
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1969年生まれ。日本体育大学卒業後、旅行会社に就職。その後、スポーツ指導者をめざし、非常勤講師として勤める傍ら、同大学で短距離走の指導を10年間続ける。名城大学の女子駅伝の指導に携わり2005年、全国優勝に導く。06年、松山大学着任後、女子駅伝部を設立、監督となる。13年の全日本大学女子駅伝対校選手権大会では、3位入賞を果たした。

 

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interview
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「ひとつ屋根の下」で、目指せ日本一!

 躍進する松山大学女子駅伝部の立役者

 

Q1 女子駅伝部設立から今までの経緯を教えてください。

 村井啓一コーチ(松山大学教務課)と2人で立ち上げましたが、ゼロからのスタートでした。ですから1年目は、全国の高校めぐりをして、選手を探す活動をしてました。そして2名が入部してくれ、陸上部内での活動でスタートしました。2年目は、3名の選手が入学し5名になり、このときに女子駅伝部が創られ、陸上部と分かれて活動を始めました。駅伝は6名必要なのですが、サッカー部の駅伝経験者に大会に出場してもらい、その年の中四国予選大会新記録で優勝し、全国大会に初出場することができました。そのときの成績は、26チーム中18位でしたが、3年目は11位、4年目は4位、5年目は5位、6年目は4位、そして今年が3位と少しずつ上がってきています。

 

Q2 なぜ男子ではなく女子駅伝部なのですか?

  「日本一」を目指すことを考えたうえで、女子駅伝を選択しました。男子駅伝で強化するとなったら、松山で日本一を目指すことはゼロに近いほど難しいです。なぜなら、男子は箱根駅伝があるからです。箱根駅伝には、関東の大学しか出場できません。箱根駅伝への出場を目指して、男子の有望な長距離選手は関東の大学に進学するため、松山では男子の駅伝の強化は難しいのです。女子の場合は、地元に残る選手が多いということもあり、上を目指すことができると思いました。今は、日本一の力はまだまだないし、上との力の差はまだまだありますが、こだわりは日本一です。

 

Q3 そもそも駅伝指導者になったきっかけは何ですか?

 中学生の時は野球部にいました。高校でも甲子園を目指すつもりが、足の速さを見込まれて陸上の選手として高校進学の時にスカウトされたことが、陸上と関わる大きなきっ かけです。体育の先生を目指して大学へ進学したのですが、アルバイトで総合型スポーツクラブを経験し、サービス業に関心が芽生え、旅行会社に就職しました。でもそこで、修学旅行生のお世話などをしているうちに、教育やスポーツ指導への熱意がよみがえってきて、陸上の世界に戻りました。

 最初は10年間、母校の日本体育大学で、短距離の指導をボランティアでしていました。指導では一切給料をもらっておらず、大学の非常勤で生計を立てていました。非常勤の講義は一週間に17コマも入っており、練習も毎日でした。このまま続けていくことは難しいと思い始めた時に、女子駅 伝の強化していた名城大学から誘いを受けました。年棒契約制で、結果が残せなければすぐに辞めなければならない、という厳しい環境の中で、2年目で全国優勝に導きました。その後、いろいろな縁があって松山大学に赴任し、2年目に女子駅伝部を創設しました。初めは、日本一を目指せないと 思ったら、5年で辞めようと考えていました。選手が2人の時は自宅に住まわせていましたし、妻と喧嘩することはほとんどが選手に関することです。それくらい、選手育成に人生を捧げています。

 

Q4 女子駅伝部の体制、練習メニューについて教えてください。

 村井コーチ、スポーツ公認栄養士の大田美香コーチ、鈴 木茂部長(経済学部教授)、副部長の高原敬明さん(国際セ ンター)という体制でしています。部長は、直接的な現場のサポートよりも、チーム強化に必要な学内の様々なしくみを整えていただくなど、側面支援的な部分で動いてくださっています。選手は、合宿所で合同生活をすることがルールとなっています。

 選手は午前5時15分起床で、6時15分に久万ノ台グランドに集合します。久万ノ台グランドまで片道3キロの往復に加えて、グランドで10キロの計16キロを毎朝走ります。 日中は授業を受けて、午後は講義が終わり次第順次集合して、4時15分から講義が終わり次第順次集合して、大体3時間ほど練習します。試験中も休みはありません。木曜日の午後と試合のない日曜日の午後だけがフリーです。この日は、選手はみんな近くの温泉施設に行くことが多いですよ。合宿所の門限は21時ですから、フリーの日でも選手がお酒を飲むということはほとんどありません。また、食事は、管理栄養士についてもらい、気を配って身体づくりをしています。BMI(体重と身長の関係から算出される、ヒトの肥満度を表す体格指数)を16.5~17.5前後(女子標準平均は18.5~20)に設定し、試合でベストのパフォーマンスができるようにこだわっています。指導方法についての理論は様々ですが、このやり方が間違っていないと思っている以上はそれを貫き通すことが大事だと思っています。間食は厳禁です。昔はそれでもついついおやつを食べてしまう子もいましたが、今は意識があがってきて、間食をする子などはいなくなりました。

 

Q5 国体強化指定チームに指定されていますが、そのことでどのような支援を受けているのか、また、えひめ国体と関連してどのような取り組みをしているのか、教えてください。

    今年は愛媛県からの補助は年間55万円前後いただいています。それは、日本一長い夏合宿に使っています。しかし、実は、国体で愛媛代表として出場した選手は一人もいま せん。愛媛への貢献のひとつは、1月の第2週の日曜日にある都道府県駅伝です。松山大学女子駅伝部は愛媛出身者が13名中2名しかいませんが、各都道府県の代表になると決まっている選手以外は愛媛登録にしました。今の選手はえひめ国体の2017年には大学を卒業しており、愛媛登録で国体に出場することが、実業団の関係でできません。だ から、愛媛にいる間に愛媛に恩返しをしたい、という思いからこのような形にしています。

 

Q6 一流スポーツ選手の育成には活動費がたくさんかかるといいます。女子駅伝部の場合、やり繰りはどうしているのでしょうか?

 今、女子駅伝部は14名いますが、試合、合宿合わせて、大体年に1000万円かかります。初年度に赤字が出たときに経済学部の先生を中心に後援会をつくっていただきました。また、松山大学に依頼して「メディア対策費」をいただいていたりして、活動費にあてています。このほかに、松山大学には、有名コーチに指導していただくために、そのコーチに最大50万まで払ってもらえる制度があります。それを利用して、毎年、土佐玲子選手に来ていただいているのですが、その50万円は全額私たちの活動費として寄付していたたいています。これに加えて先ほど述べた県からの国体の強化費55万円もあります。このように、資金面に関して確定 的な部分は全くない状態ですが、いろいろな形で、いろんな 人のご協力に支えられて、活動しています。

 

Q7 近年、競技スポーツ振興のためには「運動選手のキャリア支援」も必要との議論もあるようです。松山大学女子駅伝部の場合、卒業後の選手の就職状況はいかがですか?

  短距離の場合は、たとえ日本のトップになり、オリンピックに出場したとしても就職は難しいのが現状ですが、女子駅伝はすごく恵まれています。今現在、全国には30を超える実業団のチームがあります。その中で各チームとも毎年必ず2、3名補充しますので、強くなれば、就職先はありま す。松山大学女子駅伝部の卒業生は10名中9名、実業団に就職しました。

 

Q8 女子駅伝部で心がけていることはありますか?

 常に意識していることは、がんばるということです。うちの 「がんばる」は、どのような状況でも、近い目標でも遠い目標でもいいので自分で決めて、行動し続けていくことです。また、我慢ということも大事にしています。我慢はすごく嫌ですが、その後には、満足が絶対にあります。きついときにどう いう意識や、考えをもって、自分を次の自分に変えていくかはすごく大事なところだと思います。そのような我慢、「がんばる」を意識しながらやったら、おもしろいチャンスがあると思います。順風満帆にずっといくことなんて、人生の中ではまず間違いなくあり得ないです。意識改革ができれば、目標に向かって近づくことが誰にでもできます。そのようなことで、陸上を通して素晴らしい女性になってほしいと考えながら活動しています。

 

Q9 愛媛だからできる駅伝ってありますか?

  最初は愛媛でも女子駅伝が強くなれることを見せたいという気持ちで活動していました。しかし今はまったく違う気持ちで、愛媛だからできることがたくさんあるな、と感じています。練習中に地元の人から声援がもらえたり、全日本大学女子駅伝対校選手権大会の報告会でも、全国三位という結果にもかかわらずメディアが取材に来てくれたりします。関東で三位をとってもメディアは来ないけど、愛媛という地方だからこそ、メディアにも取り上げてもらえたのだと思います。選手もそこを感じて強くなってきてくれていると思 います。

 

編集後記

 大西監督は明確な「日本一」という目標をもってこの女子駅伝部を創設しており、松山大学女子駅伝部にすべてを注ぐ強い思いがあります。地元の方の声援や、メディアで取り上げてもらったことなど、地方ということをメリットとすること、愛媛だからこそできる駅伝を見つけたことが松山大学女子駅伝部の強みだと思いました。監督の指導力、すべてを駅伝に注ぐ情熱、愛媛だからこそできる駅伝というプラス 思考などの要素が絡み合い、全日本大学女子駅伝対校選手権大会で、3位入賞を果たしたのだと感じました。「日本 一」も夢ではないと思います。私も松山大学女子駅伝部の 一人のファンとして、愛媛だからこそできる駅伝を応援し続 けたいです。

 

取材日:2013年11月7日

取材・文:河村柚花

 

松山大学女子駅伝部練習風景

松山大学女子駅伝部練習風景

全日本大学女子駅伝対抗選手権大会報告会の様子

全日本大学女子駅伝対抗選手権大会報告会の様子

練習指導中の大西崇仁監督(右

練習指導中の大西崇仁監督(右