05 愛媛県企画振興部国体局+県教委国体競技力向上対策室
2017年に開催されるえひめ国体は、1953年の四国4県合同開催以来、64年ぶりで初の愛媛県単独開催となるビッグプロジェクトです。
国民体育大会(国体)は終戦直後に始まりました。以後 、都道府県持ち回りで開催され、全国のインフラ整備にも寄与してきました。国体は今、88年の京都国体から二巡目を迎えており、今日ではその存在意義を問い直す声もあります。そうした状況の下、愛媛県では、施設改修を最小限に抑え、既存施設を最大限に活用するなどといったように、手探りで作業を進めています。国体の準備に県としてどう取り組むのか、8人の県庁職員さんにお話を伺いました。
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profile
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えひめ国体の開催準備は、官民協働の組織として設けられた「第72回国民体育大会愛媛県準備委員会」と選手の育成強化に特化した「愛媛県競技力向上対策本部」との連携によって進められている。準備委員会は2005年に設立。県知事を会長とし、県内各界各層の代表者177名の委員で構成。その下に、総務、施設、競技、広報・県民運動、宿泊・衛生、輸送・交通、式典、警備・消防の8つの専門委員会が設置され、分野別に準備業務の検討を行っている。一方、競技力向上対策本部は2007年に設立。県教育長を本部長とし、県関係者、県体育協会、小・中・高体連、大学、民間企業等で構成。県内のスポーツ関係者と連携・協力して、競技力の向上に取り組んでいる。県企画振興部国体局及び県教育委員会国体競技力向上対策室は、この二つの組織の事務局機能を担っている。
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interview
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国体を「チームえひめ」で盛り上げよ!
愛媛県国体局及び国体競技力向上対策室の職員たちに課せられたミッションを探る
Q1 県民を広く巻き込んだ国体を目指しているそうですが、そのためにやっていることは?
えひめ国体は、県民のみなさんが何らかの形で国体に関わる“県民総参加”を目指しています。遍路文化によって培われてきた「おせつたい」を頭文字とした基本目標を掲げていて、それには来県者へのおもてなしを心がけ、愛媛の魅力を伝え、さらに、スポーツへの意識を高めていきましょう、というようなメッセージを込めています。具体的な活動内容としては、各競技会場でのボランティア活動をはじめ、競技会場周辺・駅・道路などをたくさんの花で彩る「花いっぱい運動」、きれいな街で来県された方を気持ちよくお迎えする「クリーン運動」などが挙げられます。
2014年度からは、ボランティア活動の第一弾として、広報ボランティアの募集を開始します。広報ボランティアとは、様々なイベントでえひめ国体マスコット「みきゃん」と一緒に活動したり、新たに制作予定のえひめ国体のダンスや体操を踊ったりするなど、国体開催に向けて一緒にPRしていこうというものです。大学生を中心に一般の人も含め幅広く募集する予定です。
Q2 現在、県民の方々にどのくらい認知されていると思いますか?
県職員の中でも「そういえば国体があるんだよね」という方がいるぐらいですから、認知度は決して高いわけではありません。国体の開催というものが、私たちの生活に必要不可欠なものではないというのも関係しているかもしれません。しかし、国体という非常に大きなスポーツの祭典が開催されるわけですから、これをきっかけとして、何か取組みを始めるとか地域を元気にするとかなどにつながってほしいと考えています。
Q3 県は選手育成・強化に対しどのようなサポートを行っていますか?
えひめ国体では、全正式競技の男女総合成績第1位の都道府県に授与される「天皇杯」獲得を目指します。そのために、2006年度に「愛媛県競技力向上対策基本計画」を策定し、国体開催までの期間を「育成期」、「充実期」、「躍進期」といった形に区分し、充実期は20位台、2015年度からの躍進期には10位以内といったように、期間に応じて目標を設定し、選手の育成・強化を進めています。
メジャー競技は学校の部活動もあり、様々な方面から手厚く支援することが可能ですが、競技人口が少ない、また、学校に部活動が設置されていないような未普及競技に関しては、各競技団体での育成が中心になるため、メジャー競技とは異なる視点から育成策を講じる必要があります。競 技種目によって、選手育成策の軸となるところが違うことから、県としてはそれぞれの実情に合わせて幅広く柔軟に対応できるような体制の確立に向け、各競技団体や個別の学校(強化指定校を中心とした中・高・大学)、中体連、高体連と幅広く連携しながら、選手育成策の主体となってくれるところには必要な支援ができるように、様々な助成のしくみを整えています。近年では、未普及競技を部活動に取り入れ てくれる学校が増えつつあります。伊予農業高校に新設されたライフル射撃部は2013年度に開催された東京国体で少年の部優勝者を輩出しました。また、ライフル射撃が開催 される内子町でも、地元内子高校に県内二つ目のライフル射撃部が2014年度新設されることが決定済みです。
今まで普及が進んでいなかったスポーツが国体を通して目を向けられるようになることで、競争争率の高いメジャースポーツだけでなく、未普及競技でも上位を狙っていきたいと考えています。
Q4 県外に在住する優秀な選手に、出身地の選手として登録・出場してもらう「ふるさと選手制度」という仕組みが ありますね。多くの選手に登録してもらうために、どのような取り組みをされていますか?
「ふるさと選手制度」とは、成年の部で出場権を有している選手が、住民票を置く地域からではなく、中学あるいは高校を卒業した地域の選手として国体に出場することができるという制度ですね。県は、この制度を活用し、より多くの優秀な選手に愛媛県の選手として登録・出場していただくために、選手の活動費用や、国体予選や四国ブロック大会で愛媛に帰ってくる時の費用を補助しています。また、実業団などに所属している選手を国体に派遣してもらえるよう、交 渉を行ってくれる各競技団体に対して旅費を補助しています。また、県内高校に在籍している選手の大学進学に際しては、愛媛県登録の「ふるさと選手」として国体に出場できるように大学側との約束を取り付けてもらうよう、高校の先生方に働きかけています。
Q5 国体を開催するにあたり、資金は必要不可欠になると思います。資金集めの方法について詳しく教えて下さい。
県民の皆さんからの寄付と、企業協賛という方法で資金を集めます。
企業協賛は、特典がつきます。長期的スパンで早めに取り組む必要がありますからね。この「ひめっこ募金」を活用し、 既に06年度から12年度の間に4億5490万円をかけて競技力向上のための事業を実施しました。このような取り組みは他県にはない本県独自の取り組みです。10億円近くの寄 付金が集まった背景には、積極的に企業依頼を行ったことで多くの企業からのご理解を得られたことが挙げられます。
Q6 国体といえば「民泊」のイメージもありますが、近年では、民泊の受入数が減少しつつあります。民泊についてどう考えていますか? また、国体での宿泊対策について教えてください。
確かに「国体といえば民泊」というイメージを持つ人も少なくないはずだと思います。しかし実際のところ、宿舎については、大会参加者が最良のコンディションで十分な活躍ができるよう、基本的には既存の宿泊施設の利用を原則とし、民泊はそれを補完するものと考えています。
宿舎の確保と割りふりは、本来は各市町の役割とされていますが、えひめ国体でも、これまでの先催県と同様に、「合同配宿」といって、県と市町が合同で宿泊業務を業者に委託して、全県の宿舎に関する情報を一元的に管理運営できるシステムを整えています。こうすることで、市町の手間も経費も省けると同時に、円滑に宿泊業務を進めることができるんです。 このように、大会参加者の宿泊は営業宿泊施設でまかなうという基本方針がある一方で、鬼北町は、地域コミュニ ティが活発になり、市町が元気になるというメリットを重視し、いち早く民泊の実施を表明しました。早期に意思表明したことで、議会や住民の理解も十分に得られ、民泊実施予定である4市町のなかでは最も準備が進んでいます。
民泊を行う際は、自治会ごとに「民泊協力会」という組織が設置されます。民泊協力会には、実際に選手の宿泊を受け入れる宿泊班をはじめ、調理班や美化班、歓迎班など様々な班が設けられ、住民が協力しやすいしくみとなっています。先ほど述べたように、選手のコンディション維持は、民泊を実施する場合でも最優先されなければなりません。このため、たとえば高齢者のみの家庭や赤ちゃんがいる家庭には宿泊は依頼できません。しかし、選手の宿泊は受け入れられなくても、協力してもらうための方法 はいろいろとあります。
Q7 身の丈に合った施設整備を実現するため、具体的にどのような努力をされていますか?
費用節減の具体例を挙げるのはちょっと難しいですが、とにかく県も財政難であるため、既存の施設を最大限に活 用し、改修は最小限にとどめることが必要条件でした。すべ ての競技団体の要望に対応することは難しく、その調整には大変苦労しました。改修作業は2016年度に開催されるリハーサル大会に間に合うように進めています。
今後は、2020年の東京オリンピックに向けて、全国的にも事前合宿や競技大会などの誘致活動が活発になることが予想されるため、愛媛県でも、国体のために改修した施設をPRし、積極的な誘致活動に取り組みたいと考えています。
Q8 国体を通して期待される効果はありますか?
ホッケーの試合開催予定地である松前町では、町民みんながホッケーに親しむことができるようにホッケー教室を2005年から開催しています。その他、ライフル射撃が開催される内子町、民泊の受け入れを表明した鬼北町のように、多くの地域で、国体を一過性のものにするのではなく、国体を契機にして地域の活性化に発展させようという気運の高まりも感じます。
編集後記
取材を通じて、選手育成策によって培われる高い競技力や、国体開催をきっかけとした競技種目の市民への浸透、民泊の実施を契機とした地域コミュニティの活性化など、国体終了後も愛媛県の財産として受け継がれていくものがいろいろあるのだと知りました。僕も県民の一人として大会で訪れてくれる方々には「去(い)んでこぉわい」ではなく「また戻(も)んてこぉわい」と言っていただきたい!と思うようになりました。
緊縮財政下での施設整備に加え、盛り上がりを見せるまでには今しばらくかかりそうな県民意識の醸成、選手の育成など、関係者の皆さんは、いくつもの課題をクリアしなけ ればなりません。それでもえひめ国体を良い大会にしようと頑張っている方々の想いは、きっと来県して下さる人々にも通じると信じています。
取材日:2014年1月28日
取材:河村柚花・山口智大
文:山口智大
取材協力者の方々:
■愛媛県企画振興部国体局 国体総務企画課 総務グループ 担当係長 神原浩司さん
■愛媛県企画振興部国体局 国体総務企画課 総務グループ 担当係長 芝 一浩さん
■愛媛県企画振興部国体局 国体総務企画課企画グループ 担当係長 野本正義さん
■愛媛県企画振興部国体局 国体総務企画課広報・県民運動グループ 担当係長 高橋英明さん
■愛媛県企画振興部国体局 国体運営調整課 施設調整グループ 指導主事 池内秀企さん
■愛媛県企画振興部国体局 国体運営調整課 施設調整グループ 主任 神原晋悟さん
■愛媛県教育委員会事務局管理部 保健体育課 国体競技力向上対策室
■愛媛県教育委員会事務局管理部 保健体育課 競技力向上グループ 担当係長 辻岡英幸さん
■愛媛県教育委員会事務局管理部 保健体育課 競技力向上グループ 担当係長 渡部和宏さん
(文中敬称略)