04-1 松山大学図書館 学生団体C3
松山大学図書館に初めて行ったとき、本の専門性と質の高さに驚きました。所蔵数は中四国の私立大学図書館でも随一の92.5万冊(2012年度末現在)。公立図書館では揃えるのが難しいような貴重な資料も数多く収蔵されており、多くの大学図書館と同様に、市民に対しても開放されていることから地域に貢献しています。デジタル化された情報が飛び交う今、実際に本に触れることができる図書館は、違う情報との接し方ができ、心の成長が得られる場所として、とても大事な役割があると思います。そこで今回、身近な大学図書館をもっと知ろうと、学生図書館アドバイザー「C3 」と、松山大学図書館の職員井上清麻さんに取材をしました。
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profile
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松山大学図書館で活動している学生スタッフ。「Chance(機会)」「Challenge(挑戦)」「Change(変化)」の3つの頭文字を取って「C3」と名付けられている。メンバーは現在1回生から4回生までの計25人で、図書館の活動室で週1回集まり活動。 2010年ごろまでは、経済学部の熊谷太郎准教授(専門分野:法と経済学、経済政策、契約理論)と西尾圭一郎准教授(専門分野: 金融論、国際金融論)から指導を受けていたが、現在は学生のみで運営。新聞作成やブックハンティング(図書館に置いたら良いと思う本を、直接書店でピックアップする活動)、オープンキャンパスでのクイズラリーなど、いろいろな活動に取り組んでいる。
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interview
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本とみんなを繋げたい!図書館大好き!
学生の図書館アドバイザー
Q1 基本的な活動内容は?
(宮本)たくさんの人に図書館を利用してもらうよう、館内を分かりやすくするための掲示や、「C3新聞」、選書コーナーの設置、貸し出しランキングなどの展示物の作成、高校生のためのオープンキャンパスの手伝いと、ブックハンティングなどをしています。
オープンキャンパスでは、図書館の職員さんと一緒に、館内のツアーを行っています。全体を20分から30分くらいか けて説明します。クイズラリーでは企画から全部行っています。館内のいろんなところに掲示したクイズを高校生が見つ けて答えてもらい、答えを集めたら一つの言葉ができるようになっています。解答してもらう中で、この図書館について知ってもらえるようなクイズの内容にしています。解答者には、C3のみんなで作ったオリジナルのしおりをプレゼントしています。ときどき余ったしおりをカウンターに並べて取っ てもらっていますよ。
Q2 どういった経緯で設立されましたか?
(美馬)設立したのは2007年ごろと聞いています。当初は松井さんや友人伝いにメンバー募集が始まり、5、6人で活 動していたようです。
(松井)愛媛大学には就職、図書館のボランティア団体があり、松山大学も何か活動をしてみないかということになりま し た 。最初は図書館での4年間の長期インターンシップのようなものとして始まりました。学生のコミュニケーション力 や企画力を高めるために、図書館で行うイベントを企画、実 施していました。学生が研修に行かせてもらえたこともありました。職員さんや先生方はあくまでサポートに回って直接指示は出さず、学生が主になってやりたいことをする力をつけてもらい、その課程で図書館を活性化させるという目的で始まりました。
Q3 活動の振り返りや意見交換はどのようにしていますか?
(宮本)週1回の活動の時に、図書館職員さんに活動室に来ていただいて、連絡を取り合っています。メンバーとの情報共有は、メーリングリストなどを使っていました。活動に対する振り返りは、大きなイベントの後に良い点、悪い点を週1回、話し合うという形で行っています。
(武本)実際に出された反省点に、「オープンキャンパスの時に図書館に来てくれる高校生が少ない」というのがありました。毎年メンバーの数人が、図書館の外での呼び込みをしていこう、ということになりました。効果はあまり実感できませんでしたが、「図書館の中はクーラーがあるから 涼んでいって!」と呼びかけようかという案もありました。
クイズラリーでは、参加者が少ない、途中でやめて帰ってしまう、景品を引き換えずに帰ってしまう、という反省点がありました。これには、景品を豪華にして参加者を増やす、参加者の高校生に声をかける、景品を引き換える場所 を出口付近の分かりやすい所に設置する、などの解決策が出されました。クイズラリーの景品一つ一つを決めるのにも、職員の方々の意見も交えつつ議論を重ねます。予算も決められている中、活動の隅々にまで「図書館へのこだわり」が見えるようにと、みんなで知恵を絞っています。
Q4 スタッフの確保の仕方は?
(宮本)現在は、新入生のガイダンスの広報と冊子に載せることでスタッフを確保しています。
(林)昔は「知り合いの先輩がやっている」「友達がやっている」といった口コミでスタッフを集めていました。私たちの代から人数が整ってきたため、職員さんに頼んで新入生のガイダンスの時間を使って広報しました。部活動、サークルの冊子にもC3のことを載せるようにしたのは 2012年からのことで、それから人数が増えていきました。
Q5 選書コーナーの選ぶ基準はどのようなものですか?
(宮本)他の学生に読んでもらいたいものや、学習に役立ちそうなものを選んでいます。
(林)図書館内でも振り返りがあって、選んではいけない本が年々増えてはいます。例えば、漫画は選べません。他にだんだん入らなくなったものについては、ライトノベル、写真集です。大学の図書館は専門図書館なので、学生が勉強するときに必要になりそうな参考書を中心に集めないといけないので、内容がフランクなものはあまり選ばな いようにしています。図書館の職員さんが、私たちが選書した中からふさわしいと思うものをピックアップして、購 入、登録などの手続きをした後に配架されるので、1ヶ月以上はかかりますね。
Q6 図書館利用の広報の仕方は何でしょうか?また、改善点がある活動はありますか?
(宮本)今、「C3新聞」などの掲示物を作っています。その中でメンバー個人的にお勧めする本であったり、図書館の貸し出しランキング表を作ったりします。
本の内容なども詳しく調べて、掲示物を楽しく作って掲 示しています。でも、なかなか利用者の皆さんに立ち止まって見てもらえないので、もっと掲示の仕方を工夫して、「読みたいな」と思える記事を書いていくのが、これからの課題の1つであると思います。
Q7 理想の図書館像とは?
(林)C3設立当時の図書館職員さんは、「図書館は本を読みに来るところであり、自習するところではない」というスタンスでした。でも実際には、松大には授業の中で本を使って調べる課題を出す授業が少ないですし、勉強するために試験前だけ利用する学生が多いということがあり、本を読むために図書館に来る人が少ないです。
松大の図書館は本当に宝の山で、バックナンバーもすごくあるし、欲しい資料もだいたい揃っています。昔の新聞も誰でも見られる環境にあって、閉架図書も4回生になれば入れます。ですが、蔵書やデータがあっても、利用の仕方を知らない学生が結構いて、利用する機会もあまりないというのがすごく悲しい現実です。他大学の授業を受けたり、図書館を利用したりしてみて思いました。
(宮本)C3が考える「理想の図書館像」としては、1年間を通して図書館が多くの人に利用される場所でありたいなと思います。
【補足】西尾准教授と熊谷准教授(以下、敬称略)にも、お話を伺いました。
■お二人がC3の指導を担当されるようになった経緯は何ですか?
(熊谷)3、4年前に、松井さんが図書館にいたときに、「C3を見てくれないか」と頼まれました。現在は指導していませんが、僕と西尾先生のほか、当時の図書館職員さんも指導に関わっていました。
(西尾)松大図書館運営委員になったのがきっかけでC3に関わるようになりました。そもそもは熊谷先生たちがC3の指導をしておられたところに、たまたま経済学部の委員として図書館に関わるようになったことから、一緒に様子を見てくれないか、と事務の方などからお話があったような記憶があります。
■具体的にどのような指導・助言をされておられましたか?
(西尾)私はオープンキャンパスでC3が図書館ツアーなどを企画しているのを横で見て、感じたことをお話したのを覚えています。
(熊谷)教員の方から直接指示を出したりアドバイスをしたりということはしませんでした。「これをやったらどう?」などを言わずに、「どんなことがしたいの?」と聞いていました。例えばオープンキャンパスのときも、高校生たちにどんな気持ちになって帰ってもらいたいのか、ということを 聞いていく感じです。そうすると、自分たちでああしたい、こうしたいという意見が自然と出てくるので、「じゃあこうしよう」というふうに動いていました。指示を待つのではなく、自分たちが何をしたいのかということを考えられるような場作りをしました。
■指導者の立場から、C3の活動の成果や今後の課題についてどのようにお考えになっていますか?
(熊谷)僕がC3を見ていた頃は、今は経営企画部にいる美馬君が部長でした。その頃は同じ学年、同じ経済学部の子が多かったということもあって、C3の活動が上手く回り始めた代だったと思います。単に仲良しでやっていくのではなくて、みんなで何がしたいのかということをだんだんと話せるようになってきていたし、それを上の学年の子たちがきちんと聞くこともできていました。こちらから出された指示で動くというよりも、自分たちがこうしたいという気持ちで動けていたというところが、活動の成果だと思います。
課題はというと、これも今は指導をしていなくて分からないので、今の視点からは言えませんが、同じことの繰り返しだったかなという感じがします。例えばC3の推薦する本のコーナーとか、松山大学図書館がどんな所か知ってもらうオープンキャンパスの企画とか、すごく素敵な活動ばかり ですが、毎年それをやっていれば良いというような雰囲気が少しあったかなと思います。それから、やったことに対して自分たちが何を学んで、どういうことに気がついて、次は何をしたいのか、というようなことを話す場が無かったので、結局は元に戻ってしまう、という感じがありました。
(西尾)C3は自主的な組織として活動していて、彼ら自身がいろいろと考えて動いているので、教員は見守るだけでいいかな、と思っています。ただ、言葉に表せていない問題の蓄積など、課題はいろいろとあると思います。
編集後記
松山大学の図書館は蔵書数も多く、学生にとって勉強や研究に役立つ本がたくさんあります。しかし実際には、試験勉強のための環境を求めて来る人が多く、うまく利用できている学生が少ないというのが現状のようです。
多くの学生に見てもらえるような掲示物の作成や、図書館のことをもっと知ってもらえるようなクイズラリーなどの活動から、C3の皆さんの「もっと利用してもらいたい!」という気持ちが伝わってきました。図書館に親しみがもてるような工夫が詰まっている活動を知れば、学生たちもC3の活動の面白さを感じられ、興味を持って図書館に来てみたくなるのではないかと思います。
取材日:2013年9月17日、14年1月31日
取材:植田名津美・門多大・田中杏奈
文:田中杏奈
取材対象者の方々:
■元部長で4回生の宮本江梨さん、OBの林みどりさん
■過去に指導していた熊谷太郎准教授、西尾圭一郎准教授
■設立当初から活動に関わっていた松山大学学生課の 松井千代美さん
■C3の元リーダー、松大経営企画部の美馬尚貴さん
■現在のメンバー 経済学部2年の近森大輔さん、 法学部2年の武本侑子さん (文中敬称略)
生かせ!92万冊以上の所蔵数。 求められる図書館像を模索する 松山大学図書館スタッフ
C3の皆さんは、図書館を単なる試験勉強の場として利用するのではなく、せっかくの資源である資料をもっと学生に活用してもらいたいという考えのもと、イベントの実施や掲示物の作成をしています。井上さんはさらに一歩進んで、新たな大学図書館像として「ラーニングコモンズ」というキーワードを挙げています。これは「複数の学生が集まって、様々な情報資源から得られる情報を用いて議論を進めていく学習スタイルを可能にする場を提供するもの。その際、コンピュータ設備や印刷物を提供するだけでなく、それらを使った学生の自学自習を支援する図書館職員によるサービスも提供する」(文部科 学省HP「用語解説」より URL : http://www.mext. go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin /attach/1301655.htm)というもの。これからの大学図書館には、本を貸し借りするだけではなく、よりアクティブな共同学習勉強や議論の場として、さらに一歩踏み込んだ役割も期待されているようです。
松山大学図書館でも、2013年10月に、話題の「ビブリオバトル」も生協との共催によって初めて開かれ、地域からも注目を浴びました。今後も学生団体と職員の方々とがさらに連携を深め、利用者をも積極的に巻き込んでいけば、まだまだ面白いことができそうです。
文:門多大