02 西坂文秀 Fumihide Nishisaka

出典:さいさいきて屋公式サイト URL: http://saisaikiteya.com/

出典:さいさいきて屋公式サイト URL: http://saisaikiteya.com/

 

 JAおちいまばりが運営する直売所「さいさいきて屋」(今治市中寺)は、日本最大級の規模を誇り、休日には6000人もの買い物客であふれ、年間売り上げは24億円です。ここで扱っている200種類以上の野菜のほとんどが地元今治産。「小さな経済」を目指し、原材料も加工業者もすべて今治 の「もの」や「ひと」を活用し 、お金をなるべく地元の外に出さない仕組 みを作っています。直売所の西坂文秀代表は、兼業農家や小規模農家、高齢者など、大多数を占める生産力の小さな人たちの受け皿になることを目標にしています。さいさいきて屋に込められた思いを取材しました。

 

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profile
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JAおちいまばり(越智今治農業協同組合)直販開発室室長、「さいさいグループ」代表。1961年生まれ。83年、大学卒業後、当時の今治南農協に入組。97年、「JA改革」に伴い、14農協が合併してできた現在のJAおちいまばりで、2002年、さいさいきて屋を発案、プロデュース。さいさいきて屋は、広さ約1万7千平方メートルのうち、売り場面積1862平方メートル。「SAISAI CAFE」や「彩菜食堂」を併設。

 

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interview
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今治を全国区へ導くダークホース!

目からウロコの産直市経営術

 

Q1 取り組みと特徴を教えてください。

 「売れる店づくり」をしています。大切なことは、人が来てくれて、見に来てくれて、人が集まってきてくれることです。これが売れる店づくりだと思っています。人が集まっているところに自分の商品を提供するのが 普通です。だから、セールスをするのではなく、売れる店づくり、人が来てくれる店づくりをするのが我々の仕事です。

 仕入れの代わりに売り上げの15%を手数料としていただき、商売しています。農家さんに売り上げを知らせるために、レジのデータを15分おきに集計して、携帯電話のメールで売り上げを送信。データは携帯電話で見られるようになっています。農家の皆様に売れているということを数字で見せることが、やる気に繋がっていると思います。

 これまでは、農家さんは農協に農産物を持っていけば 終わりでしたが、さいさいきて屋に出荷すると、自分の商品がどんな時間帯でどれだけ売れていくかがリアルタイムで分かります。この仕組みがやりがいにつながり、出荷する農家が増加したのだと思います。高齢者の多い農家さんですが、売り上げを把握するために携帯電話をばっちり使いこなしていますよ。

 

 

Q2 地元産にこだわる理由を教えてください。

 

 ここを利用する観光客が多いのはなぜだと思いますか? 今治のものしか売っていないからですよ。基本的には魚も肉も野菜も限りなく100%に近いほど今治産です。観光客は、その土地で育てられたものを見たり、食べたり、買いにきたりして、地元ならではのものを求めているからです。これ がこだわりでOnly One戦略です。「今治」が見えないものは売らない。「今治」が見えないことはしない。それが、さいさいきて屋が生き残るために必要なことだと思っています。

 キーワードは農協ならぬ「農強」。「将来の強い農業づくり」を目指すという意味です。ただし、強い農業といっても、規模拡大によってグローバル化に対抗しようというわけではありません。島と山が多い地形上、小さな農地ばかりのこの地域では、農地の大規模化・大量生産で競争するよりも、 地産地消を心がけ、「小さな経済」で回していくほうが生き 残れる戦略だと思っています。この戦略が、「将来の強い農業づくり」に繋がっていきます。地産地消は単なるブームではなく、必ずしも商品の産地にはこだわらないスーパーとは 違った新しいマーケット形式ととらえています。

 

 

Q3 作物の品質保証のために出荷者に課している条件はありますか?

 毎朝、出荷者に商品を持ってきてもらったら、必ず店頭に陳列しなければならないというルールがあります。あまり質の良くない商品があれば、職員がチェックして、売り場に出ないようにしています。どういった理由でその商品を持ってきたのかを聞き、品質管理を徹底しています。契約書や協定などで明文化された条件があるというわけではありません。

 

Q4 商品名を筆で書くきっかけは何ですか?

 働いている人の中に、字を書いたり、絵を描いたりするのが得意な子がいるから、それを生かせるようにしているだけです。実際に書かせてみたら職員からも評判がよかっ たんですよ。

 

Q5 活動にはどんな工夫がありますか?

 直売所の欠点は、売れ残りの商品を農家の方に持って帰ってもらうことです。さいさいきて屋では、その日に売れ残った品物を買い上げ、翌日に食堂やカフェで使っています。農家の方が自分で値段を決めて売っているので、せっかく出荷した作物が売れ残ってしまうのは、農家の方にとって大きなリスクですよね。だから残ったものを買い取り、様々な方法で加工して売れば、売れ残りが減り、農家の方の売り上げがアップします。こういったことが農家のためであると思っています。

 併設の食堂やカフェでは、さいさいきて屋にあるものを使 います。材料はすべてこの店で仕入れます。全部自前で経営し管理しているのがここのコンセプト。その時々の旬の食材は、同じ時期にたくさん出荷されるため、どうしても売れ残りが出るので、そういったものを使って惣菜やお弁当にしています。

 また、野菜を乾燥させてパウダー状にする「野菜パウダー工房」を2012年に設立しました。野菜をパウダー状にすることにより、ケーキやパン・焼き菓子などの加工品へ無駄なく使用しています。「SAISAI CAFE」ではそういった地元の果物、野菜を使ったスイーツを取り扱っています。季節のタルトをメーンに、「農」をテーマに描いたスイーツです。店の一番人気は、5列あるショーケースが1日に3回転するという大人気のイチゴタルト。この商品を考えたのは、パートの女性たちです。最初はパティシエを 雇っていましたが、折り合いが悪く、その結果、残ったパートの方たちと作り上げたものがヒット商品になりました。

 

Q6 今治南高校の生徒がタオルを作って販売していますが、なぜですか?

 地場産業であるタオルと関連して、農と産業が連携できることは何か考えているうちに、農業とタオルを結びつけることはできないかと思いついたんです。綿を作るのは 農家であり、それを加工するのは工場で、それをここで販売すれば、地域で農工商連携の今治らしいものを作ることができると思い、タオルづくりをはじめました。

 今治南高校のクリエイト科の生徒たちが入ってくることにより、地域の輪が少しでも広がるといいなとも思っています。特別支援学校の障がいのある人たちにも協力してもらっています。綿をとるときには小さい種があって、それを取り除くのは手間がかかり地道な作業。でも支援学校の子どもたちはその作業が得意なので一生懸命やってくれます。

 タオルの染色にはたまねぎ、レモン、栗の皮、綿の枝を使い、すべて今治産。こうして出来上がったこの「種からタオル」ですが、商品づくりのプロセスも含めて評価してもらえたのでしょうか、なんと、2012年度グッドデザイン賞を受賞しました!

 綿はタオル以外に、ジーンズにも使えるということに気づきました。綿を作れば衣食住の「衣」も農業から発信することができるんですよ。現在ジーンズメーカー「Lee」と提携してジーンズも作っています。すべての根っこは農業から生まれています。農業という種をまいてみたらいろいろな花が咲いたということですね。これらの発想は僕の趣味。遊びの世界だからね。

 

Q7 彩菜食堂では今治市内の幼稚園の給食を作っています。なぜですか?

 地域の輪を広げるためです。それと、地産地消を子どもたちに理解してほしいからです。日本食を小さい時から知ってもらいたいですね。栄養士の管理のもと、今治の食材を中心に毎回献立を決めて、バランスの良い色彩に富んだ、温かなお母さんの味を届けています。食材をここで調達してもらい、子供たちに食の文化を教えていくことで、日本の食文化の再生に繋がっていくのではないかと思っています。

 給食を出して分かったことは、子供には本来好き嫌いがないということ。子供の好き嫌いがあるのは、親の好き嫌いを押し付けているだけだということが分かりました。3、4歳の子は何でも食べてくれますよ。ちゃんと小さいときから食を教育していくと、子供が親に教育してくれるんですよ。なぜかというと、子供がそれを食べたいからです。実際に給食で出されているものが彩菜食堂でも出されているので、子供が親を連れてくることが多いですよ。

 給食は、基本的にデザートはなくて主菜と副菜のみ。エビフライなど子供が好きそうなものはありません。メニューは作る人が決めています。私たちは今の旬の野菜などを提案するだけです。地産地消が難しいという人がい ますが、冬の野菜を夏に、夏の野菜を冬に使ったりしようとするから難しいのです。季節のもので料理を作ることにより、地産地消率が上がります。旬の食材を使うと値段が安くなり、給食費も安くなります。栄養価も高いのです。

 食の教育については「saisaiKIDS倶楽部」という企画もあって、農業の生産から販売を通じて、食と農の大切さや、今治の自然や風土を学ぶことを目的に、毎年農業体験を行っています。参加資格は、越智郡と今治市内の小学生で、活動期間は月1回で1年間。年間1万円、募集定員は16人です。子供たちと農業体験をして自分たちで作って食べています。

 

Q8 今後の目標について教えてください。

 農家が出荷したものは規格に合えばすべて買い取るJAとは違い、商品の売れ残りを農家の人に返すという直売所の弱みをどう克服していくかが課 題ですね。売れ残りをジュースやジャムなどに加工し、最終的には、農家が作ったものをすべて買い取って、さいさいきて屋で販売したいと思っています。

 また、2014年4月から、島しょ部などに住む「買い物難民」といわれる方々の対策を始めます。買い物弱者の方に携帯タブレットを渡し、ネットスーパーのように注文してもらうシステムを開発。商品注文のほかに友人にお手紙が送 れるシステムと安否確認システムを付ける予定です。文字は手書きの文字を画像として相手に送ることができるので相手に自筆のまま送れます。そして、送る相手をあらかじめ登録しておけば、ワンタッチで送ることができます。

 安否確認システムは、画面に表示される花の苗に毎日水をやってもらうというもの。画面には、花の苗とその斜め上にジョウロが表示されています。そのジョウロをタッチすると花に水をやれるようになっており、水をやったという情報がさいさいきて屋に届きます。何日も水をやった形跡がない場合は、職員が家に伺うという確認方法です。ちなみにこの花は1カ月すると季節の花が咲きます。人と人とのコミュニ ケーション作りにも取り組んでいきたいですね。

 

編集後記

 農業を大切にしながら食の情報を発信するという地元愛あふれる理念が、店全体に広がっていました。さいさいきて屋には自動販売機がありません。飲み物を求める人には、 手作りジュースを販売しているそうです。販売機を設置しても地域の取り分は少なく、電気代もかかります。販売機を置かずに自分たちでジュースを作り、売ることで地元にお金が落ちるように工夫されています。「地元のため」「農家のため」「消費者のため」と、いろいろな視点で考えていることが ヒットの秘訣ではないかと思いました。そして、徹底的に地元にこだわるというスタンスで、今治の地域活性化に大いに貢献していることが分かりました。

 さいさいきて屋では、若者でなくあえて熟年世代に農業を始めてもらうという企画もあり、発想がユニークなのです。西坂さんの柔軟な発想でたくさんの工夫で展開していくさいさいきて屋を多くの人に知ってもらい、後継者が夢を見ることができる産地を作っていけたら素晴らしいと思いました。

 

取材日:2013年12月26日

取材:笠間夏貴・武本侑子・藤田智子

文:笠間夏貴

 

「 種 か ら タ オ ル 」。 出典: GOOD DESIGN AWARD公式サイト URL: http://www.g-mark.org/award/describe/38333

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人気のイチゴタルト。

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売り場のあちこちにある手書きの文字が 人のあたたかみを感じさせる。

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