01 夏井いつき Itsuki Natsui

夏井いつきさんプロフィール画像 マルコボコムHPより 

 

 愛媛県松山市では、毎年夏に「俳句甲子園」という大会が開かれています。ただの地域振興のイベ ントではありません。高校生が俳句で戦い、泣いたり笑ったりの熱い戦いが繰り広げられ、ときに思いがけないドラマが生まれることもある不思議な大会です。

 この大会に欠かせない存在なのが、愛媛を中心に活躍される俳人 夏井いつきさんです。初回大会が開かれた1998年より以前から構想に携わり、大会の試合方式、公平な審査制度を作り上げてこられました。独特の語り口で熱く語る、まさに肝っ玉かあちゃんのような夏井さんに、俳句甲子園への想いを語っていただきました。

 

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profile
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1957年生まれ。中学校の国語教諭として勤務後、俳句の世界に飛び込む。98年に開催された第一回俳句甲子園以前の構想の段階から唯一の俳人として関わり、現在も審査員として活躍する。94年第8回俳壇賞、00年第5回中新田俳句大賞、05年NHK四国ふれあい文化賞受賞。『100年俳句計画』(そうえん社)、『子規365日』(朝日新聞出版)、句集シングル『蝶語』(マルコボ.コム)など著書多数。

 

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interview
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17文字の熱闘

俳句甲子園の肝っ玉かあちゃん、語る!

 

Q1 俳句甲子園とは?なぜ立ち上げたのですか?

 俳句甲子園とは、高校生ならだれでも参加できる俳句の大会です。

 各高校から5人1チームで参加し、議論によって俳句の優劣、鑑賞力を競います。俳句といえば静かで穏やかなイメージがあるんだけど、俳句甲子園は本家の甲子園に負けないような熱気があるんです。

 この構想に関わろうと思ったのは、俳句文化を広めようっていう気持ちからです。松山の俳句文化はほかのどこにもない宝であるということを地元の人は案外認識していないもんなんですね。だからこそ、どんな小さな大会でもいいから松山で最初に開催して、「俳句甲子園は松山発信です」というカードを手に入れなければって思ったのね。

 もう一つは俳句っていうのはお年寄りしかやらないというイメージがある。若い子たちに俳句を伝えていくってい うのも、とても大きなキーワードになるという思いがあったからですね。

 

Q2 俳句甲子園の面白さとは?高校生であることの意味は何ですか?

 高校生のうちから俳句に興味を持ってもらったら、俳句の敷居が高いっていうのも取っ払われるんじゃないかっていうのが一番大きいですね。参加者の高校生っていうのは、俳句を始めて2カ月くらいで大会に出ちゃう子や、大人顔負けの句を披露してくれる俳句マニアな子だとかいろいろな子がいるの。玉石混交の中で、句に対してどの発言が本当に的を射ているかというのを、お客さんも考えながら見ることができるっていう点がオモシロイんじゃないかと思いますね。

 句歴の短い子が負けて悔しい思いをして、次の大会に参加してくれることもあるんだけど、作品やその子が語ることを見ていると、一年でどれだけ真剣に取り組んできたか一目瞭然なんですよ。

 

Q3 審査員もされているが、気をつけていることはありますか?

 審査する時には、小さな言葉尻とかニュアンスを聞き逃さないように気を遣っています。そうすることで、その人の 俳句に対する理解度を図っています。 審査の基準に関しては、初回大会から16年かけて思い描 いていたところにやっと来たのね。俳句の審査はよく、主観ではないかと誤解され がち 。だけど主観で評価しちゃうと、高校生たちが安心して戦えないじゃない? だから、採点の基準を明文化しました。

  例えば、同じレベルの句を採点するときは、良くないとこ ろを減点するのではなく良いところを加点していくように します。そういう基準を審査員、評価される側の高校生、 顧問の先生たちにも納得してもらえるように評価シートを作ったんですね。

 よく、「高校生らしくて良い」だとか評価をする人がいる んだけど、「高校生らしい」っていうのはないんですよ。良い 作品かつまらない作品かだけなんです。「子どもだから という甘めの基準で評価をしたら、俳句は腐ってしまうと思うし、絶対にすべきではないとわたしは思っています。

 

Q4 印象に残るエピソードはありますか?

  予選リーグは全敗だった高校があったんです。校長先 生にほぼ無理やりにエントリーさせられてね。だから緊張して何もしゃべれなかったらしいんですね。彼らはそのあと「何もいいところを見せられなかった。敗者復活で残れたら爆発しようぜ!」って話し合って奮い立ち、結局優勝しちゃったんです。

 その高校はその当時の校長の言葉を借りると「三流高校」で、どちらかというと無気力な生徒が多い学校だったらしいの。メンバーの1人は事情があって引きこもりかけてるような子で、試合にも出ないし俳句を作りはするけど下手なんです。でも優勝して、この彼がすごく大きな友情を初めて感じたって言っていたらしいの。校長先生は、この大会に出ることで、生徒たちに自信をつけてほしかったんだと思うのね。だから、生徒たちが活躍できる場を探していたという校長先生の思惑は大成功だったわけですよ。

 俳句甲子園では小さなドラマがいっぱいあって、感激するし、子どもたちと一緒に涙ぐんじゃう時もある。俳句が生活の一部になったことで人生が豊かになったり、大会で友達との大切な思い出ができたり。恋が生まれることもある。俳句甲子園ってそういうところなんです。

 

Q5 俳句を広めていくためにほかにやっていることはあ りますか?

 わたしは「マルコボ.コム」って言って、俳句を使った社会貢献会社に所属しているのね。マルコボ.コムが打ち出している「100年俳句計画」とは、俳句を核に、文化教育(子どもたちに俳句になじんでもらう)、観光経済(松山にお客様を呼び込む)、医療福祉(俳句を使った認知症予防プログラム)の3つの柱で、活動をしているのね。

 俳句っていうのはいろいろなものと相性がいい。俳句が文芸という枠の中だけでとどまるのはもったいないと思いますね。俳句っていうのはいろいろなことを動かす核にな れる不思議な文芸なので、使えるものはなんにでも使おうと思っていますね。

 

Q6 最後に高校生へメッセージをお願いします。

 俳句って敷居が高いと思い込んでいる人がほとんどだと思うんだけど、食わず嫌いではなく、とにかく俳句に関わってもらいたい。俳句というものを手にした人たちがどれだけ豊かな日本語を獲得して豊かな人生を送れるかっていうのをわたしは実感しています。だから、一人でもたくさんの人に、俳句のある豊かな人生を送ってほしいです。

 

編集後記

 俳句甲子園ではさまざまなドラマが生まれ、参加した高校生の今後の人生にも影響を与えます。これほどの影響力をもつ大会は、全国を探してもなかなかないのだろうと思います。実際に参加者の皆さんは、「甲子園」の名にふさわしいくらいに本気の勝負に挑んでいます。

  物おじせず、俳句初心者の方こそ大会に参加してみてはどうでしょうか。もちろん、最初は良い句を作ることができず 、審査員の方々にめった 打ちにされるでしょう。しかし、次の年に一生懸命勉強して挑む高校生の皆さんを審査員の先生方は覚えています。

  今回夏井さんにお話を聞いて感じたのは、わたしが思っているよりも参加者一人一人の戦いを見ているということです。高校生だからという見方ではなく同じ俳句の作り手という目線で見ているからこそ、対等な立場でそれぞれの成長を感じ取ってくれるのです。

 勇気を出して挑戦することで自分の中に秘めている力や努力の伸びしろを知るチャンスになります。本気になって取り組むことで自信につながり、そこから思いがけないドラマも生まれます。とにかく、3年間の高校生活を無駄にすることなく、今しかできないことに挑戦してみてもらえればと思います。

 

取材日:2013年5月25日

取材:清水華奈・甲斐朋香

文・清水華奈

 

ま つ や ま 俳 句 甲 子 園 全 国 大 会 二 日 目 午 前 中 、敗 者 復 活 戦 の 模 様 。

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全国大会初日、出場者にとっては憧れの聖地である松山大街道商店街での予選。常連校のオリジナルシャツも風物詩のひとつ。

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『愛媛新聞』では大会の模様が数日にわたり大きく取り上げられる。

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